東京高等裁判所 昭和28年(う)301号 判決
被告人 飯塚丑松
〔抄 録〕
一、論旨第一点(イ)(ロ)について。
所論(イ)は原判示(4)の青木豊吉関係の三万円が、同人個人の納税ではなく、青木豊吉が代表取締役である株式会社青木畜産商会の納税金である旨主張する。しかし原判決は、被告人が所得税のみの徴収事務を担当していた旨判示したわけではないこと原判文に徴し明白なところであるし、被告人の当審公判廷に於ける供述によれば、被告人が大蔵事務官として勤務していた伊崎勢税務署及び熊谷税務署に於ては、課税の事務についてこそ所得税や法人税等に係が分れていたが、徴収事務についてはこのような係が区別されていなかつたことが認められるから、前記青木豊吉の納めた金三万円が、同人個人の所得税であろうと、或は株式会社青木畜産商会の法人税であろうとを問はず、徴収係たる被告人に於て、これを受理し保管する業務を有するものというべく、従つてこれを擅に自己の用途に費消すれば業務横領罪の成立することは明白なところである。それ故原審が右納税者の資格を青木豊吉個人と認定したことが誤認にかかるものとしても、この誤認は判決に影響を及ぼすこと明らかとはいえないから、論旨は失当である。
二、同第一点の(ハ)について。
原判決犯罪一覧表14は被告人が昭和二十七年一月十日水野利三の納税した金七万円を預り保管中之を着服横領した事実であり、被告人が昭和二十六年十二月末日を以て分任徴収官吏を罷免せられたことを被告人が原審公判廷において述べていることは所論のとおりである。それ故被告人が昭和二十七年一月十日水野利三代理人中田治己より水野の納税金として七万円を受領したのは分任徴収官吏として為されたものとは認められない。(原判決挙示の証拠により明白なとおり、被告人は右中田治己より熊谷税務署に於て七万円を受領したものでなく、わざわざ書面を出して埼玉県深谷町に同人を呼び寄せ、同人から七万円を受けるや、自己の名刺の裏に預り証を記載して交付したのみである。)従て右14事実に関しては、被告人は熊谷税務署所属の分任徴収官吏として納税金の受理保管の業務に従事していたものとは認められず、単に同税務署徴収課の一員として、正規の領収証を発行せずして受領したに過ぎないから、之を着服横領する所為は単純横領罪として刑法第二百五十二条第一項を適用すべきものであるに拘らず、原審が之を誤解し、右所為についても同法第二百五十三条を適用したのは、事実を誤認し、法律の適用を誤つた違法があるとしなければならない。しかし本件14の事実はその金額に於て前記のように七万円であり、本件全体の原審認定にかかる業務横領金額総計三十七万七千六百余円の五分の一にも満たないこと明白であると共に、右七万円の分について無罪であるというなればともかく、単に業務横領罪の適用が誤で単純横領罪の適用を受くべきことも亦明らかであることを考えると、以上の程度の誤は判決に影響を及ぼすこと明らかであるとはいえないから論旨は結局その理由がない。